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Interview with Hichiwa Toshiki

 地球上の音楽|出演者インタビュー|飛知和寿輝

 

取材・構成:藤倉めぐみ 

●近づいても、永遠に次がある

 

――稽古始まって、どうですか?

 

飛知和「稽古始まって、そうだなあ……えーと……何て言うんだろう。かたく言うと、すごい、あー、すごい、勉強になるなとか、すごい学ぶことがたくさんあるなとか、これをいかに逃さずに持っていけるか、みたいな感じです」

 

――それは、自分の糧にってことですか?

 

飛知和「そうですね。かたく言っちゃうとそんな感じです」

 

――どういう時に、そう思いますか?

 

飛知和「細谷さんが、直接的ではない、ニュアンスの、出来るだけその……細谷さん自身の何か伝えたいことがあったとして、細谷さん自身の思ってることを直接言うのではなくて、思ってることの、皮みたいな、皮の皮みたいなところ……」

 

――皮って、外側?

 

飛知和「そうです。玉ねぎの皮みたいな。玉子のあの……」

 

――薄皮みたいな。

 

飛知和「そうです。みたいなところだけを……何かこれ、話がずれてきてる気がするんですけど」

 

――え、いいですよ、全然大丈夫ですよ。

 

飛知和「……え、何て言えばいいんだろう」

 

――稽古やってみて、どう思うかってことでいいですよ。

 

飛知和「稽古やってみて、えーと……」

 

――じゃあ、質問を変えてもいいですか? 5月に、週に1度、3週間かけてひとつの作品を作るワークショップに参加してもらって、それから『地球上の音楽』の稽古に入ってますけど、ワークショップで作ってるときと、今の稽古で作ってるときで、何か変化ってありますか?

 

飛知和「あります。どっちも細谷さんの書いたテキストなんですけど、今回はどこか自分のものでもあるような……。ワークショップの時は……どうやったら自分がイメージしてることを頭だけじゃなくて、全体をその場に体現させられるかみたいなことを考えて逆にがんじがらめになって、全く自分のものとしてやれてなかった感があるんですけど、でも今回はワークショップの時よりも期間が長いって言うのももちろんあるし、ワークショップを経てっていうのももちろんあって。それがあったおかげで……その場に自分の……イメージ通りじゃないですけど、何て言えばいいんだろうな……」

 

――何かちょっと出来てきたなって感じですか? 掴んでるなって。

 

飛知和「掴んでるとか言うと、自分に『そんなことねーだろ』ってツッコミがめちゃくちゃはいるんですけど……」

 

――近づいてる感じがしますか?

 

飛知和「そうですね。今回のお芝居で近づいて近づいて、自分なりに近づいた状態で本番に臨みたいし、もっとそうしよう、本番までにもっともっと近づいていけるんじゃないかなと思うんです。でも近づいていったら、次が、実はまだあって、また近づいていったらまた次があってっていう、永遠だと思うので、全然出来ている訳じゃないんですけど、ただ、今回のお芝居に関して、近づくっていうことの感触みたいなものが、少しずつ掴めてきた気がします。細谷さんに言ったらビンタされるかもしれないんですけど」

 

――いやいや、いや、そんなことはないと思いますよ。

 

 

●演劇を通して、物の見方が2Dから3Dになった 

 

――今回、飛知和さんに出てもらう事になった経緯は、細谷も私も『あひる月13』(2013年/構成・演出:いしいみちこ)の東京公演を見ていてそれから私が『あひる月13』のいわきのI Play Fesの公演にも行って、終演後、初対面なのに私から飛知和さんに声をかけて。それから、飛知和さんが入学で上京してから、細谷も含めて東京で会って、細谷から正式に出演依頼をしました。飛知和さんは、私たちのことも、ばけもののことも、何も知らないのに、「一緒にお芝居したいです」ってその場ですぐに答えていただいたんですけど、まず、いわきで声をかけられた時ってどう思いました?

 

飛知和「あ、どういう人なんだろう(笑)」

 

――そうですよね。

 

飛知和「どういう人なんだろうって思って。俺やっぱり高校生だったから、声をかけてもらえることが、どういうことなのかっていうことがよく分かってなかったんですよ。いしい先生(元・いわき総合高校演劇部顧問/いしいみちこ先生)が多分全部用意してくれてたから」

 

――お芝居をやるってことに対して。

 

飛知和「そう、だから、自分から飛び込むって事をしてなくて……あ、どう思ったかでしたね。どういう人なんだろうと思って。確かにどんなことやるんだろう、どんな人なんだろう、どういう風になるんだろうみたいな、そういうことはよぎらないわけではなくて、よぎったんですよ。ですけど、断る、自分は今回遠慮しとこうかなって選択肢は、全くなく」

 

――全く。

 

飛知和「はい」

 

――それは、どうしてだったんだろうと思って。

 

飛知和「それは、せっかく自分と……自分のお芝居を見て、自分と関わろうとしてくれる人がいて、じゃあその人と関わらない手はないだろう。関わったら自分もきっと演劇のことだけではない、何かを得られるはずだし。その人たちのことも知れるんじゃないかなって。そうすることで、結果的に自分のことなんですけど、自分の幅が広がるような気がして……だから、ああ、やりたいなっていう風に思って。今は、そのことだけではなくて、細谷さんとか藤倉さんとか水越さんとかと演劇をすることの、簡単に言うと、楽しさっていうか、えー……ちゃんと言うと、何だろう……」

 

――じゃあ、飛知和さんにとって、演劇をやるってどういうことですか? 楽しいっていうこと?

 

飛知和「えっと、そうでは、なく。結果的に俺は楽しいから演劇をやってるんだなって、演劇やらないよりやってた方が楽しいから、演劇をやってるって選択をしてるんだなっていう風に思うんですけど、演劇をやってると確かに、色んなことを考えなきゃいけないし、時間もめっちゃかかるし、それは楽しく、ない……いや、でも、それはもしかしたら……」

 

――悩んでるようなので、順を追って、演劇をやり始めたきっかけの話を聞いてもいいですか?

 

飛知和「演劇を始めたきっかけはなんとなくで。元々バスケ部に入ろうかと思ってたら、部活見学のときに演劇部の先輩に強く勧められて……演劇を物理的に始めたのは、理由は、なんとなく。それは流れに乗ってるだけに過ぎなくて、自分から演劇をやろうと思ったきっかけは……演劇を通して自分がちょっとだけ変わった気がする、物の見方、自分の見えてるものが少しだけ広がった。見えてる世界が少しだけ広がった。(両腕を肩幅に広げて)こう、だけではなくて、(目の前に両手で丸を作って)これの、2Dが3Dになって立体で見えるようになったって感じ。立体になったお陰で、2Dに後ろはないけど、3Dには後ろがあるので、その後ろを考えられるようになった。だからそれで全部言えちゃってるのかもしれないんですけど」

 

――そういう風に思うようになったのは、いわき総合高校で作っていく過程で?

 

飛知和「そうです」

 

――それは、決定的にこの作品からっていうのはあります?

 

飛知和「それは2年生の中盤ぐらいから3年生の終わりにかけてなんですけど、2年生の中盤頃は、俺なんも考えていなくて。だから先輩たちのやってることとか、その作品の意味とかもきっと全然分かってなくて。あれ、これなんの話でしたっけ。なんていう質問でしたっけ?」

 

――決定的にどの作品から変わりましたか?

 

飛知和「そうだ。それだ」

 

――そうだ。それだ(笑)。

 

飛知和「やっぱ『あひる月13』です」

 

――あ、そうなんですね。あれ? わたしちょっと時系列がよく分かってないんですけど、『あひる月13』は『ブルーシート』(2013年/作・演出:飴屋法水)よりも前?

 

飛知和「後です」

 

――後ですか。じゃあ、『ブルーシート』の時は、まだ分かってなかった……分かってなかったというか、演劇をやるっていう意識が、今よりまだ薄かったってことですか?

 

飛知和「『ブルーシート』の時は、狭間、みたいな感じです。2年生の中盤から10月とか、9月後半ぐらいに、『あれ、自分ちょっと、だめじゃね?』って。2年生になったぐらいからその事を薄々思ってた気がするんですけど、次の部長は誰でしょうみたいな雰囲気になり始めたときに(飛知和さんはいわき総合高校演劇部の部長でした)、本気で自分のことを考えなきゃって、自分なりに思っている時期がちょうど『ブルーシート』手前ぐらい

 

――『ブルーシート』やって『あひる月13』やって。『あひる月13』は自分の事を作品上で話すって言うのが大きかったですか?

 

飛知和「自分のこと……そうですね。俺はその頃から震災を忘れていくっていうことについて……自分はどれだけ人のことを考えられてないんでしょうか、っていうのを考えたときに、ぶち当たった壁のひとつが、震災を忘れていくみたいなことで。だからそうですね。自分のことを、作品を作る上で考えていくことで、色々気づいた気がします」

 

 

●演劇は、自分のダメさを考え続けることの出来る装置

 

――飛知和さんは今、桜美林の1年だけど、その進路を選んだのはいつぐらいからですか?

 

飛知和「えーと……いつだろう、『われわれのモロモロ』(2013年/構成・演出:岩井秀人)ぐらい……でも、なんとなく、行く、のかなあみたいなことは2年生ぐらいの時から思ってて。何で行くかっていうのが自分の中で全然明確じゃなくって。理由がある程度はっきりしたっていうのは……最後までそんなにはっきりしてはなかったと思うんです」

 

――演劇の他にやりたいことがないっていう消去法というよりは、積極的に演劇を選んだんですか?

 

飛知和「そうです。それもやっぱり『あひる月13』の結構前から『あひる月13』が終わるぐらいまでにかけて考えたことで。演劇ってものが自分にとって、自分のダメさを考え続けることの出来る装置だ。じゃあ考え続けることで自分が良くなるかって言ったら良くなる保障はないし、良くなったかなんて分かんないし、良くなってないのかもしれない。けど、良くなってるか良くなってないかってことが分かんないからって、俺はそこを諦めるのか。でも、自分は全然子供だけど、3年間いわき総合高校の演劇部でやってきたことを、今はとりあえず信じて、いい方向へって、世の中を。世の中とかっていうとなんか……全然自分だめなのにって思うんですけど」

 

――いや、そんな、だめですよ、そんなに自分を卑下しちゃ。

 

飛知和「あ、はい。そうですね。まずは自分をいい方向へ、みたいな。とりあえず今は、自分の薄っぺらいけど積み上げてきたものを、今は、信じて、自分を先に進めたい、と、思いました。めっちゃ喋りたいことあるんですけど」

 

――ちょっと時間がね。いや、でも、もうちょっと聞きたいんですけど。演劇やってなかったら東京来てなかったですか? それは分からない?

 

飛知和「全然想像つかないですね」

 

――やっぱり、東京には演劇をやりに来たって感じがありますか?

 

飛知和「今は。そうです」

 

――いわきに住んでて東京に憧れてって感じではない。

 

飛知和「俺、中学校の頃とかはあったと思うんですけど……。東京かっこいいとか方言やだみたいな、っていうのがあったって記憶はあるんですけど、でも、高校で、だんだん年齢が上がるにつれて方言が嫌だとかだんだん思わなくなって、むしろ好きになったし。いわき嫌だから東京に憧れるなんてことなかったし。むしろ、いわきが好きだし」

 

――いわきが好きだって思うのって、震災って関係ありますか?

 

飛知和「えっと、……こんなこと言ったら、傷つく人もたくさんいるっていうか、何て身勝手な野郎だって感じなんですけど、でも正直やっぱり、あの震災があったからこそ、自分は、その、何か大事なことに気付けたんじゃないか。気付くきっかけを、ちょびっと掴めたんじゃないかって思って。だから震災が全く影響ないとは、今の自分の感情に影響していない、気持ちとか思考に影響してないとは全然言い切れないんですけど……言い切れないです」

 

 

●大きいことを考える前に自分のことを

 

――今後、こういう風になりたいっていうのはまだそんなに明確にないですか? 例えば大学の授業では作ることもやってるみたいですけど。作るのと、自分が演じるの、どちらが楽しいってありますか?

 

飛知和「正直どっちも楽しいんですけど、どっちも楽しいんですけど、今は、作るほうに興味がすごく傾いています」

 

――じゃあ今やってる、ばけものの稽古って自分が作る時に使えるなって思ったりします?

 

飛知和「します」

 

――例えばどういうことですか。

 

飛知和「自分は結構、壮大じゃないけど、物事を、大きく捉えなきゃってしてて。世の中とか、世界とか、平和とは、みたいな。そういうでかいところにばっかり意識が行く自分があったんですけど」

 

――大きいことって国とか時代とか?

 

飛知和「そうですね。今の若者はー、とか(笑)……。俺と誰か、とかじゃなくて」

 

――細谷と作ることは、それとは違いますか?

 

飛知和「細谷さんと作ると、細谷さんだけに限らないと思うんですけど、これは。やっぱり自分発信を忘れちゃいけないじゃないけど……、『大きいことを考える前に自分のことをちゃんと持てよ、俺』みたいな。『そこを持たないと、自分のことは考えてないことに、考えなくなっちゃうよ』って。そういうことを細谷さんとやってみて、改めて思います。……なんか、俺、演劇見る目全然ないんでわかんないんですけど、細谷さんの作品って、すごい文学的だな、いや演劇的だな、いや、何だろう。俺、すごくダサいんで、自分が作ろうとすると、色々と。手法とか。手法とかはそんな関係ないかもしれないんですけど、何て言えばいいんだろう……。学んだことは、めっちゃあるんです。めっちゃあるんです。めっちゃある。でも、それ言葉にしないといけないんですよね」

 

――本当に、分かるような言葉で言わなくていいですよ。ふわふわしてたものがカチカチになったとか、飛知和さんがこうだって思う言葉でいいですよ。誰かのフィットする言葉じゃなくていいです。

 

飛知和「えー……あー……」

 

――学んだって、ビジュアルみたいなこと? それとも音のこと?

 

飛知和「中身ですかね」

 

――中身が超勉強になるってことですか?

 

飛知和「そうですね。俺ってすごい俗っぽい考え方じゃないけど、演劇にしようと思ったら全部言葉で言う、説明的に言う、みたいな」

 

――細谷は、言葉に言わないでってこと?

 

飛知和「そうですね。言葉にせず……」

 

――さっきの、皮ってことですよね。玉ねぎの皮で、玉ねぎが中にあるって分かるってことですか?

 

飛知和「そうですね。そのことは高校時代も言われてきたし、大学の演劇の授業でもそのことを色んな先生が言ってたりするんですけど。細谷さんとやって、改めて、その大切さ、ノンバーバル、でしたっけ」

 

――ごめんなさい、私がその単語を知らないです……。

 

飛知和「言語で表現するんじゃなくて、言語がない形で表現する。例えば、これは大学の先生が言ってたんですけど、怒ってるときにコラ! って言うんじゃなくて、意外と黙ってじっと見てた方が、お客さんには怒ってるって伝わるってこと。細谷さんの作品は……そういう感じがあります」

 

 

●その場に生きて、間に生まれるものを大切にしたい

 

――じゃあ最後に、『地球上の音楽』でどんな挑戦をしたいですか?

 

飛知和「えっと、その場で生きる。その場で生きるってことをして、俺と水越さんで、舞台上ではないものも含めて、俺と水越さん、俺と藤倉さん、俺と細谷さんの間(あいだ)に生まれるものを、じっくり観察して、俺が作品を作るっていうことをする時に、是非、(両手で目の前に丸を作って)ここを、ここを大切にしたい」

 

――間(あいだ)を?

 

飛知和「間(あいだ)を大切にしたい。うん。どれだけ、間を大切に出来るかが今俺が思うミソみたいな、ミソ……?」

 

――いや、ミソでいいんだと思います。核ってことですか?

 

飛知和「そうです。演劇を作る上でそれが核なので。大切なことが自分にならず、大事なのは、相手。相手が大事で、その上で大事なのが、その上で生まれる間(あいだ)をすごい大切に。慎重に。繊細に。みたいななんか、言葉にすると、子供みたいなんですけど」

 

――いや、全然、そんなことないですよ。

 

 

 

 

 

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